ベランダでゆるゆると生ごみコンポストをしている。ある日シャケの骨やらキウイの皮やらが散乱していた。しっかり土をかぶせていたので、油断してふたをせずにいたら、どうやらカラスにほじくり返されたらしい。きっと埋めるところを見ていたのだ。ふたをして、念のためすぐ目の前の電線にとまっていたカラスに「やめておくれ」と言い聞かせておいた。カラスのいいところは、話がわかるところだ。相手が愚鈍なハトではこうはいかない。
それから数日後、ベランダに小さな鶏肉の骨のようなものが落ちていた。カラス、ついにふたまで開けちゃったのか、と思った。ところがふたはしっかりしまっている。土をいじられた様子もない。
落ちているものをよく見ると、なにやら鮮やかな緑色の輪っかがついていて、番号が書かれてある。ぴんときた。足指も何もない、ただの棒のようになっているけれど、これは鳥の脚だ。もしかしたらレース鳩かもしれない。
検索すると「日本鳩レース協会」の会員が所有している鳩だとすぐにわかった。「迷い鳩を保護したら連絡してください」と書いてある。悲しいけれどこっちは脚だけだ。でも飼い主は心配しているかもしれない。協会に電話して足環の番号を言うと、飼い主に伝えると言ってくれた。
ほんとうはそのハトの名前を知りたかったけれど、対応してくれた女性に面倒をかけるだろうなと思い、たずねなかった。それで、じぶんで足環の番号を調べてみた。名前は分からなかったが、2023年生まれ、藤沢で飼われていたことが分かった。
先ほどハトの悪口を言ったばかりだけれど、レース鳩には一目置いている。もともとはおなじドバトらしいが、帰巣力と飛翔力には目を見張るものがあるのだと聞いたことがあるし、昔ポルトガルの骨董市で買った鳩レースのメダル(裏には飼い主とハトの名前がそれぞれ刻まれている)をわたしは今も部屋に飾っている。
今年生まれたばかりの、経験のない若いハト。藤沢から飛び立ち、蒲田の空で、カラスにでもやられてしまったのだろう。名も知らぬハトに思いを馳せつつ、わたしはカラスに「レース鳩を襲うんじゃないよ」とは言わない。それはカラスとハトの問題。
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