イモムシのぼうけん2

 ひととおり部屋の中をさがしたけれど、シークヮーサーの植木から脱走したイモムシは見つからなかった。水を求めてうろうろしているかもしれないと思い、台所と洗面所も見た。過去にはキリギリスが板チョコをかじっていたこともあったので、おやつ置き場もチェックする。いない。あきらめて、私は私の生活にもどることにする。

 寝る前に、改めて部屋を見渡してみると、いた! 見つけた! 窓辺の棚の上、アイビーの枝にとまっていた。ここは一番はじめに探した場所だったのだけど、うまく葉っぱに化けていて、見のがしたのかもしれない。さすがである。

 それにしても、イモムシがこんなに歩くとは知らなかった。最短距離でここにたどりついたのだとしても、そこそこの距離を移動したことになる。

 もう迷子にならないように、虫かごに入れることにした。「ナナフシハウス」と呼んでいる一軒家。ナナフシのために手作りした風通しのよい虫かごなのだけれど、ちょうど今年は空き家になっていた。

 入居前に、アイビーからシークヮーサーに乗り移らせようとすると、イモムシはいやいやをする。しかたなく、アイビーと、シークヮーサーと、念のためクスノキの枝をいっぺんにビンに挿して、ナナフシハウスに入れた。ごはんは選べたほうがいい。これで、ぼうけんはおしまい。

 イモムシはしばらく落ち着かずにアイビーの枝を行ったり来たりしていたけれど、やがてまた同じ場所でぴたっと止まった。

 翌朝、ナナフシハウス改めイモムシハウスをのぞくと、アイビーの枝に頭とおしりをくっつけて、くの字の形でじっとしていた。よく見ると、糸で体を支えている。まだイモムシだけれど、サナギになるつもりなのだと分かった。でも、ここからどうやってサナギになるの? 本人に聞いてみても返事はない。その日、イモムシに動きはなかった。

 また翌朝、イモムシはつるんとしつつつんつんした立派なサナギになっていた。おーい、どんな魔法を使ったんだよー。見せてくれてもいいじゃないの。私は文句を言う。警戒心の強い入居者である。大家さんは悲しい。

 きれいな黄緑色のサナギを見る。中の様子はわからない。ちょうちょになるには、いったん体がどろどろになると聞く。この小さな容れ物の中で、そんな、じゃがいもをスープにしてそこからデコレーションケーキを作るみたいなことが行われているのかと思うとドキドキする。もはやイモムシのぼうけんというより、私がぼうけんに連れ出してもらったような気もちでいる。どうかどうか、元気なちょうちょになっておくれと願うばかりである。

つづく


いい場所を見つけるものだな。

kiinote

児童文学作家、イラストレーター北川佳奈の雑記帳

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